
「想像している色が脳波からわかる」
——そんなSFのような技術が,実験レベルで現実になりつつあります。
脳の電気的活動を読み取り,ユーザーが“想像している色”を推定する。
これは,脳波(EEG)とBCI(Brain-Computer Interface)技術を組み合わせることで可能になる新しいインターフェースの形です。
本記事では,筆者が開発した「脳波による想像色判定システム」の概要と仕組みを紹介しながら,BCI技術のユニークな応用例としての可能性を探っていきます。
脳波とBCIの基礎知識
脳波(EEG)とは?
脳波とは,脳の神経活動によって生じる微細な電気信号を頭皮上から計測したものです。
脳は膨大な数のニューロンが電気的に情報をやり取りすることで機能しており,その活動は電位変化として外部から観測できます。

脳波にはさまざまな種類があり,たとえば「事象関連電位(ERP)」は,視覚や聴覚などの刺激に対して脳が認知処理を行う際に現れる特徴的な波形です。
すなわち,ERPは見ているものが光った際などに,それを認識する際に出てくる脳波です。

※波形はERPのイメージ波形です。実際の波形とは異なります。
ERPは脳波を用いたうそ発見器にも使用されており,今回はこのERPを用いて脳波から想像している色を判定しています。
また,ERPを用いて脳波でキャラを動かす脳波RPGシステムも作成しており,その解説も行っていますので,よろしければご確認ください。
脳波RPGの紹介記事:脳波でキャラを動かすRPG─ナーヴギアに近づくBCI技術 – 脳波エンジニアが挑むSAO技術の開発日誌
BCI(Brain-Computer Interface)とは?
BCIは,脳波を解析してコンピュータや外部機器を操作する技術です。
ユーザーが身体を動かすことなく,思考だけで機器を制御できるため,医療・福祉分野では麻痺患者のリハビリ支援や意思伝達手段として注目されています。

BCIの解説記事:BCIとは?BCI研究者が語る,脳波で操作するインターフェース(BCI)の可能性 – 脳波エンジニアが挑むSAO技術の開発日誌
次章では,実際に筆者が開発した「想像色判定システム」の構成と仕組みについて詳しくご紹介します。
システムの概要と仕組み
今回開発した「想像色判定システム」は,ユーザーが“想像している色”を脳波から推定することを目的とした実験的なBCI応用例です。
ここでは,その構成と動作の仕組みについて詳しく紹介します。
システム構成
本システムは以下のような構成で動作します:
- 脳波計:頭皮上に装着し,脳の電位変化をリアルタイムで取得
- PC(脳波測定用ソフトウェア,OpenVIBE+ Python):ERP誘発用の視覚刺激の提示,脳波信号の処理,特徴抽出,色判定アルゴリズムの実行
この構成により,ユーザーが“想像している色”に反応した脳波を捉え,解析することが可能になります。

判定対象の色
実験では,あらかじめ定義した4色(例:赤・青・白・ピンク)から,ユーザーが意識している色を判定する形式を採用しました。
色数は今後の拡張も可能ですが,色が増えることでの測定時間の長さとのバランスが重要になります。
視覚刺激の提示方法
本システムでは,ユーザーは画面に表示される視覚刺激を注視します。
通常は灰色の背景ですが,0.1秒間だけ不規則に各色が提示されます。
ユーザーは自分が“想像している色”が表示されたときに,表示されたことを認識することで、ERPを誘発します。

ERP波形の解析手法
今回のシステムでは,画面に提示された色刺激に対してユーザーが反応した際のERPを取得し,色の判定に利用しました。
この際,脳波は非常に微弱かつノイズの影響を受けやすいため,ERP波形を明確にするために以下の処理を行いました:
- 加算平均処理:同じ刺激に対する脳波を複数回取得し,平均化することでノイズを低減
- 色の推定:加算平均後の波形に対して「最大値 − 最小値」を算出し,最も値が大きい波形を“ERPあり”と判定
この手法により,ユーザーが意識していた色に対して最も強いERP反応を示した波形を特定し,色の推定します。

実際に測定した脳波(ERP)波形の例(加算平均処理とフィルタ処理を実施)。
青線が想像していた色のERP波形であり,最もERPの特徴が大きい。
実験結果と精度
実験では2名の被験者に対して,各色の視覚刺激を提示し,ERPを取得するプロセスを複数回実施しました。
判定対象は4色で,各セッションは約1分間で完了します。
結果として,以下のような成果が得られました:
- 判定精度:90%以上の正答率を達成
- 判定時間:1分以内に色の推定が可能
- 色数の拡張性:理論上は色数を増やすことも可能。
なお,被験者数や試行回数は限られているため,今後の検証によってさらなる精度向上や汎用性の確認が求められます。
まとめと展望 — 思考を読み取る技術がひらく未来
本記事では,脳波(EEG)とBCI(Brain-Computer Interface)技術を活用し,ユーザーが“想像している色”を判定するシステムについて紹介してきました。
ERP(事象関連電位)を用いた解析により,90%以上の精度で想像している色を推定できるという成果は,BCIの応用可能性を示す非常に興味深い一歩です。
この技術は,ゲームやアートなどのエンタメ分野から,教育・福祉・研究領域まで幅広く応用できる可能性を秘めています。
思考をインターフェースに変えることで,従来の操作手段では得られなかった直感的で没入感のある体験が実現されつつあります。
著者としては,今回紹介した技術が,BCIを活用してユーザーの潜在的な興味や関心を脳波から読み取り,行動に移る前の“意識の兆し”をもとに,関連するCMや商品を案内するようなフィードバック型のシステムへと発展する可能性があると考えています。

一方で,個人差やノイズの影響,装置の扱いの難しさなど,BCIには技術的な課題も残されています。
今後はAIによる波形解析,ウェアラブル化,ユーザーごとの最適化などが進むことで,より高精度かつ日常的に使えるBCIシステムが登場するでしょう。
色の判定はあくまで一例ですが,「脳波から思考を読み取る」というアプローチは,感情や意図の推定,意思表示,創作支援など,より広い領域へと展開可能です。
BCIは,人間の内面をデジタルに橋渡しする技術として,今後ますます重要な役割を担っていくと考えられます。
脳から人の思考を読み取れる——それは,脳とコンピュータがつながる未来の象徴です。
この技術がさらに進化し,私たちの生活や創造性を豊かにする日は必ずやってきます。